「外まで買いに行くの、面倒だな」
職場でそう思ったこと、ありませんか?
広島市に本社を置くコンビニチェーン「ポプラ」は、そんな働く人たちのニーズに、活路を見いだし、新たな取り組みを進めています。
目をつけたのは、オフィスの“ちょっとしたスペース”です。
(広島放送局記者 松井晋太郎)
5期連続赤字 新たな一手は
4月14日、広島市に本社を置くコンビニチェーン「ポプラ」の決算発表の記者会見が開かれました。
店で炊いたご飯が食べられる「ポプ弁」を看板メニューに長年、地元で愛されてきたポプラ。中国地方を中心に全国でおよそ250店舗を展開しています。
しかし、その決算内容は厳しいものでした。
営業総収入は29%の減収。
最終損益は5億1800万円の赤字。
債務超過の状態で、配当は無配。
最終赤字は5期連続で、経営の立て直しは喫緊の課題となっています。
全国にあるコンビニの店舗は、およそ5万6000店舗。
ここ数年はほぼ横ばいの状態が続き、大手3社がその大きなシェアを占めているという状況です。
ポプラでは、採算が取れない店舗の閉店などを進め、店舗数はこの1年で3分の2ほどに減らしました。
しかし、新型コロナの影響で来店客の減少が続いていることに加え、物流コストの上昇や原材料価格の高騰で経営環境は厳しさを増すばかりです。
こうした状況の中、会社は大手に対抗する新たな戦略を掲げました。
小型の無人店舗「スマートセルフ」の展開です。
会見中、担当者の横に静かに座っていた目黒俊治社長(78)。
1つの店舗から事業を興し、創業後46年間で、広島を中心に西日本や東京をはじめとする関東地方などに店舗を展開してきた創業者です。
会見で、今後の自社の目指すべき方向を述べました。
ポプラ 創業者 目黒社長
「赤字が続いて申し訳なかった。
今年度は黒字の見通しを立てているが、やっとこさというところ。
コロナで外出しないというところにニーズがある。
今まで以上に細分化していく中で、より便利にするという形で進めたい」
勝負はオフィスの“片隅”で
ポプラの展開する小型の無人店舗とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
ねらいを定めたのは、オフィス内の“ちょっとしたスペース”です。
職場の中に、いわば超小型のコンビニを作ろうというのです。
店の作りはとにかくコンパクト。
わずか1坪のスペースで「開店」可能です。
そして運営の手間もコンパクト。
店員はおらず、買い物客は自分でレジで精算します。
小型の無人店舗の特徴はこちら。
<ポプラの無人店舗の特徴>
・1坪=約2畳分から設置可能
・設置は無料 電気代の負担のみ
・100~300種類の商品陳列可 品ぞろえはオーダーメード
・電子マネーなどで無人決済
・店員はなし
商品は、およそ2000種類の中から、オフィスに合わせた品ぞろえにすることが可能です。
食事の需要を取り込もうと、ご飯やパスタなどの冷凍食品もそろえています。
賞味期限が比較的短い弁当やサンドイッチなどは置けないものの、自動販売機に比べると、商品の数や種類は圧倒的に多くなります。
コロナ禍で外出を控える傾向が定着する中、
「交差点を渡ってまでコンビニに出向くのがおっくうだ」
「もっと近くで買い物したい」という消費者のニーズに応えることができると考えています。
会社では、ことし3月から本格的に事業を開始。
広島市内に6店舗を出店、9店舗が準備中です。(6月1日現在)。
今も50を超えるオフィスビルと具体的な交渉を進めているほか、全国からも問い合わせが相次いでいます。
ポプラでは、2年後にはこうした店舗を120店舗まで増やす計画です。
店舗の展開は、オフィスビルだけでなく、工場や学校、病院などにも可能だと考えています。
1坪から展開OK ポプラの勝算は
しかし、わずか1坪ほどの小さな店が、ポプラの経営の立て直しにつながるほどの収益を生み出すことができるのでしょうか。
ポプラによると、それは十分に可能だと言います。
こうした店舗の形態は、1店舗あたりの売り上げがそれほど見込めません。
しかし、ポプラが事業を詳細に分析したところ、無人店舗の3店舗分の売り上げを合わせると、既存の1店舗と同じくらい、会社として収益を確保できるというのです。
その秘けつは、人件費と物流コストにあります。
店員を置かないため、人件費はかかりません。
さらに、配送は週に1回。
弁当、雑誌、日用品など、1日に何度も配送が必要なコンビニ特有の物流コストを徹底的に抑えます。
そして、専用の物流施設ではなく、既存の店舗の倉庫から商品を配送する仕組みにしたのです。
“待つ”のではなく、“出向く”
この無人店舗を考案したのは営業本部長の山下鉄之さん(49)です。
新卒でポプラに入社後、コンビニ業界が右肩上がりで成長してきた時代に、現場の店長や出店の営業などを経験。
いわば、現場をよく知る、たたき上げです。
しかし、次第に大手のコンビニに売り上げを奪われていく状況を目の当たりにしてきました。
だからこそ、消費者のニーズに応える網の目をさらに細かくして、大手の手が十分に届いていないと考えたサービスに目をつけたのです。
ポプラ 山下営業本部長
「街に行けば、角ごとにコンビニがある状態です。
大手の寡占化が進んでいるのを私自身も感じていて正直、飽和状態で、悔しい思いもしてきました。
同じ戦略では厳しい戦いになりますので、ビジネスフォーマットを変えて、お客さまのより近くにお店を作れないかなっていうのはいつも考えています」
どの場所に進出するか?
ことし4月、無人店舗を新たに出店する地域について、営業本部の会議が開かれました。
議論になったのは、JR広島駅の南側一帯での出店についてです。
ここは、オフィスビルが集中しているビジネス街です。
昼間にはビジネスマンが多く行き交う場所ですが、深夜や休日といった時間帯の客が少なく、店舗を撤退させた大手のコンビニもあるほどです。
ポプラはあえて、この場所に目を付けました。
多くのオフィスがあるのにもかかわらず、コンビニが意外と少なく、買い物をする場所に困っている人が多いのではないかと考えたからです。
「公共交通機関を使っている方が多いが、傘の品ぞろえも必要ではないか」
「カップケーキのような商品もほしいというのが女性層にあると思う」
会議では活発な議論が行われ、山下さんは、この地域での営業を強化するよう指示を出しました。
ポプラ 山下営業本部長
「お客さまのニーズも細分化していますし、コロナという中で社会環境も変わってます。
身近で手早く、安全に安心して買い物をしたいというニーズは今後も広がっていくと思います。
さまざまなお客さまのお声に耳を傾けて、店舗を広げていきたいと思ってます」
足を使って、汗をかいて
会議から2日後、営業の担当者は、さっそく出店を目指す地域に足を運びました。
ターゲットとしたのは、社員が100人規模の会社や信号を渡らないとコンビニがないオフィスなどです。
オフィスビルをひとつひとつ確認しながら自分の足で歩いて、新規の出店候補を探っていました。
ポプラ 営業担当者
「コンビニにできることは、まだまだ先があると思っています。
業界に旋風を巻き起こせるぐらいの実績を上げて、広島から発信していきたいです。
赤い看板を絶やさぬよう今後も発展を続けていきたいです」
意地の一手 その行方は
大手3社の寡占化が進むコンビニ業界で、独自の戦略に打って出た広島発のコンビニチェーン「ポプラ」。
大手に対抗する意地の一手になりうるのか、その取り組みの行方から目が離せません。
広島放送局記者
松井 晋太郎
2005年入局
スポーツニュース部、ネットワーク報道部を経て広島局ではスポーツや被爆者などを取材
週末は少年野球のコーチとして汗を流す