アートとデジタルテクノロジーを通して、人々の創造性を社会に発揮する(シビック・クリエイティブ)ための拠点として、2022年10月にシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]が設置された。
XR(ARやVRの総称)技術を用いて、渋谷の街を舞台に開催された浅見和彦+ゴッドスコーピオン+吉田山による都市型展覧会『AUGMENTED SITUATION D』(2023年3月)の様子。Photo:ただ(ゆかい)
市民やアーティストが集まり、東京に社会実験を引き起こす拠点がCCBT
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT](以下、CCBT)を運営する、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団は、オーストリアのリンツ市で約40年にわたって、アート、テクノロジー、社会をつなぐ取り組みを行っている文化機関アルスエレクトロニカと2023年4月より連携協定を締結、同機関で国際的に活躍する小川秀明氏がCCBTのクリエイティブディレクターに就任した。
小川氏は言う。「CCBTは美術館でもギャラリーでもありません。市民やアーティストが集まって、アートとテクノロジーを活用し、東京に社会実験を引き起こす拠点がCCBTです。東京という都市を捉え直し、街を未来の実験区として、複数形の『Futures』を探ります」
先進テクノロジーに対して、アートが担う役割
小川氏は続ける。「アートは、(人や社会に)課題を問いかけたり、対話を生み出す力を持っていると思います。日々進化していくテクノロジーをただ消費するのではなく、アートの力で意味を持たせ、(その結果)生まれたイノベーションを、東京という社会にどのようにインストールしていくのか。その策を講じていくためのプラットフォームこそがCCBTなのです」
市民、アーティスト、行政をつなぐプログラム
CCBTのコアプログラムの一つに、毎年公募により選出した5組のクリエイターがCCBTのパートナーとなり創作活動を行い、そのプロセスを市民に開放する「アート・インキュベーション・プログラム」がある。
2022年度には、渋谷の街を舞台にしたXR技術を用いた都市型展覧会の開催や、子どもから大人までが協働し世界にひとつだけの運動会を共創した『未来の東京の運動会』、「都市の地下空間」をテーマに、巨大な地下調節池などをスケートボーダー達が探索し、土木や建築をストリートの視点で切り取る作品の展示や、関連ワークショップなどを展開。2023年度は141件の応募があり、選定された5組のCCBTアーティスト・フェローが、それぞれの活動をスタートしている。
渋谷区立神南小学校で開催された『未来の東京の運動会』(犬飼博士とデベロップレイヤーたち/2022年10月開催)の様子。Photo:佐藤基
地盤沈下と地下水位の状況を観測する施設、目黒観測井横の空地で屋外展示された、都市の地下空間をスケートボーダーたちが滑走する作品「rode work ver. under city」(SIDE CORE、2023年)。Photo:ただ(ゆかい)
2023年度のアーティスト・フェロー、SnoezeLab.によるプロジェクト「IISE (Immersive Inclusive Sensory Environment)」の企画イメージ。障がい者や障がいのあるこどもの親も運営チームに参画、障がいの有無に関わらず誰もが楽しめるインクルーシブな環境づくりを目指す。 Image: SnoezeLab.
「CCBTはホワイトキューブ(現代美術用語で、美術館やギャラリーにおける展示空間)のためのアートではなく、都市の変容を促すために、社会に向けたアートを生み出すことを目指しています。行政システムの中に、あえて批評的な性質をもったアートを抱え込み、都市の課題解決のための戦略やポリシーを市民とともに考えていく。ここでのプロジェクトの一つひとつが、社会を巻き込んだ大きな都市実験であるという考え方もできるでしょう」
CCBTが取り組む実験の数々は、他都市でも応用できるイノベーションのための気づきやきっかけとなるだろう。東京が国内外のデジタル・クリエイティブの拠点となるべく、CCBTの担う役割に期待が高まる。
取材・文/佐野慎悟
写真・イメージ提供/シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]