「菅おろし」がやんだ自民党 東京五輪を前に主導権争いの号砲 | TECH+
政府の新型コロナウイルス対策は世論に支持されていないのに、自民党では幹部がこぞって菅義偉首相の総裁再選を支持し、「菅おろし」の声はぴたりとやんだ。挙党一致で難局に臨むといえば聞こえはいいが、一皮めくると、秋以降をにらんだ主導権争いはすでに始まっている。党内の微妙なパワーバランスの上に成り立つ菅政権は「終わりの始まり」の危うさをはらみつつ、夏の政治決戦となる東京都議選に突入する。「私は無関係」 5月17日、自民党本部で開かれた定例記者会見で幹事長の二階俊博から意外な一言が飛び出した。「1億5000万円が支出された当時、私は関係していない」。真意を確認しようとする質問に、二階は「私は関与していないということを言っているわけだ」と繰り返した。 2019年参院選の広島選挙区(改選数2)で議席独占をもくろんだ自民党は、2人目の公認候補として元法相の河井克行の妻・案里を擁立。克行らが代表を務める政党支部に党本部から1・5億円を投入し、全面支援した。しかし選挙後、大規模買収事件で案里は当選無効になり、4月25日の再選挙で自民党は敗北した。巨額資金と事件との関連は解明されていない。 19年当時も選挙を仕切る幹事長職にあった二階が「関係していない」と言ったのは、もちろんとぼけたのではない。2月で82歳になったが、ここ一番の切れ味は健在だ。会見に同席した二階側近で幹事長代理の林幹雄はこう続けた。「広島に関しては、実質的には当時の選対委員長が担当していた」 林がほのめかした相手は元経済再生担当相の甘利明。急に矢面に立たされた甘利は翌日、「党から給付された事実を知らない。1ミリも関わっていない」と苦笑交じりに記者団に語った。 常識的には二階を飛び越えて甘利が1・5億円を差配することなどあり得ない。二階と林は甘利が否定するのを織り込み済みで、責任のなすり合いを演じてみせたのだ。 それはなぜか。二階の発言を伝え聞いた閣僚経験者は当然とばかりに解説した。「そりゃ、名前を出せない人が背後にいるでしょう」 19年参院選で当時の首相・安倍晋三と官房長官の菅は、党広島県連の反発をよそに、案里陣営に肩入れした。会見での二階の発言は「まさか1・5億円問題に知らん顔するつもりではないだろうな」という2人へのブラフだったとみていい。【財務省】衆院選やコロナ「第5波」見据え、歳出圧力高まる「3A」が結集 この話には伏線がある。 5月3日にBSフジの番組に出演した安倍は、司会者から菅の評価を尋ねられてこう答えた。「本当にしっかりやっていただいている。総裁選を去年やったばかりで、1年後にまた総裁を替えるのか。当然、菅総理が継続して職を続けるべきだ」 昨年8月に安倍が退陣表明した際、いち早く菅支持を打ち出して自民党総裁選の流れを作ったのは二階だった。その功績あって、党務は二階と国対委員長の森山裕を中心に回っている。一方、乗り遅れた最大派閥の細田派と麻生派には人事などで不満がくすぶっていた。 副総理兼財務相の麻生太郎に近い衆院議員は「安倍が番組で菅支持を表明することは麻生も事前に承知していた」と明かす。安倍政権時代から麻生はことあるごとに安倍の私邸を訪ねて意見交換するなど盟友関係にある。2人が足並みをそろえて二階の機先を制した狙いは、もちろん次の党役員人事での幹事長ポストだ。 安倍の退陣後、有力な総裁候補が見当たらないのが細田派の悩み。麻生派には規制改革担当相の河野太郎というカードがあるものの、閣内で新型コロナのワクチン接種政策を担っている河野を「菅おろし」の主役にしては筋が通らない。いきおい、菅を支えつつ政権運営の主導権を握るのが安倍、麻生の共通戦略になる。 それに対し、二階にとっては幹事長にとどまり続けることこそが力の源泉だ。参院広島選挙区再選挙で「政治とカネ」の問題が党への逆風になったのは、元はといえば安倍と菅が案里を優遇したのが原因で、それを棚に上げて幹事長交代など認めるわけにはいかない。 そんな二階の思いが、1・5億円に「関係していない」という先の発言にはにじみ出ている。後日、二階は「党の組織上の責任は我々(総裁、幹事長)にある」と微妙に軌道修正したが、それ自体は大した問題ではない。 こうした中、自民党本部で興味深い会合が発足した。日本の半導体戦略を検討する議員連盟。甘利が会長を務め、安倍と麻生は最高顧問に就いた。5月21日の設立総会で、麻生は詰めかけた報道陣を見回しながらあいさつした。「A、A、A。3人そろえば何となく政局って顔だが、(記者の)期待は外れるから、間違いなく。半導体のわからん人たちはここに来てもまったく意味がない」 12年12月に発足した第2次安倍内閣は安倍、麻生、甘利と菅が政権の骨格で、それぞれの姓の頭文字を取って「3A+S」と呼ばれた。麻生はそれに引っかけて3人の影響力を誇示したのだ。 もちろん、4月の日米首脳共同声明に「半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」と盛り込まれたように、半導体の確保は日米の経済安全保障上の重要課題になっている。議連の主眼はこの問題で政府を後押しすることにあるが、望むと望まざるとにかかわらず、政治的な意味合いを帯びる。その証拠に、総会に二階派幹部の姿はなかった。 やや話はそれるが、一時沈静化していた1・5億円問題が再燃したのは、参院広島選挙区再選挙の後、前政調会長の岸田文雄が党広島県連を代表して使途の説明を党本部に申し入れたことがきっかけだった。 結果として、広島を含む衆参3選挙の「全敗」に早くけりをつけたかった自民党は悪夢をずるずる引きずることになり、党関係者は「なぜ蒸し返すようなことをしたのか」と岸田の政治センスに首をかしげた。 他方では、岸田が安倍と麻生に接近して、意図的に二階に揺さぶりを仕掛けたといううがった見方もあり、総裁選に絡んで派閥領袖の思惑は交錯している。【厚生労働省】感染拡大防止へ、歯科医のコロナワクチン接種も可能に入管法改正を一転断念 菅政権の求心力低下は国会対策にも表れた。外国人の在留管理を厳格化する入管法改正案の衆院審議が大詰めを迎えていた5月18日、政府・与党は突然、今国会での成立を断念した。継続審議扱いになる見通しだが、秋までに衆院が解散されるため、事実上の廃案にほかならない。 改正案は、国外退去処分を受けた外国人が入管施設に長期収容されている問題を解消するのが目的だった。送還まで支援者や弁護士らの監理の下に施設外で生活できる「監理措置」を設けた半面、同じ内容の難民認定申請を3回以上した場合は申請手続き中でも送還できるようにした。入管行政に対する世論の批判に配慮し、硬軟両様の対策を盛り込んだのが特徴だ。 しかし、政府が改正案を閣議決定した後、名古屋出入国在留管理局の施設に収容中のスリランカ人女性が3月に死亡。体調不良を訴えていたにもかかわらず、適切な治療が受けられなかった疑いがあるとして、野党は法務省に監視カメラの映像開示を要求した。 今国会での成立を目指す与党は、開示の代わりに法案修正で立憲民主党など野党の軟化を促したが、5月14日夜、合意寸前で協議は決裂。森山ら自民党国対幹部からは「来日した遺族へのポーズに過ぎなかったのか」と野党への批判が噴出し、週明けに衆院法務委員会で採決する方針をいったんは固めた。 それがあっさりひっくり返ったのは、報道各社の週末の世論調査で、政府の新型コロナ対策への不満から内閣支持率が軒並み低下したことが大きかった。 先述したように改正案には非正規滞在の外国人の処遇改善につながる部分があり、実は野党も「局地戦には勝ったが、長期的な評価は難しい」(立憲民主党議員)と、与党に成立を断念させたことを手放しでは喜んでいなかった。裏を返せば、政権に勢いがあるときなら、与党には強気で採決に臨む選択肢もあっただろう。 ただ、公明党は強行採決だけは回避したいのが本音だった。参院法務委員会の委員長は同党の山本香苗。万が一、採決時に荒れる場面がニュースで繰り返し報じられたら、東京都議選(6月25日告示、7月4日投開票)に悪影響が出ると懸念したからだ。 それだけではない。新型コロナの収束に一丸となるべき場面なのに、政権には末期症状ともいえる緩みが目立ち始めた。 副防衛相の中山泰秀は5月20日、参院外交防衛委員会に遅刻し、流会になった。その1週間前には副厚生労働相の三原じゅん子が参院厚労委に遅刻し、菅が19日の参院本会議で「今後このようなことが起こらないよう、政府全体で気を引き締めて国会対応に当たる」と陳謝したばかりだった。 官房長官の加藤勝信は20日、副大臣と政務官を急遽、首相官邸に集め、「このような形で注意喚起するのは極めて異例のことだと強く認識していただきたい」と苦言を呈した。【外務省】積極的な「ワクチン外交」で存在感発揮へ小池の次の一手は? 有力な「ポスト菅」候補がいないせいで、自民党内では衆院選前の総裁交代論は高まっていない。しかし、菅が「安倍・麻生ライン」と「二階・森山ライン」の一方に重心を移せば政権はたちまち不安定化する。それを見越して、二階派幹部は「幹事長は誰でもできるわけではない。二階さんのような人がほかにいるのか」と菅をけん制している。 衆院解散・総選挙は秋の可能性が極めて高く、都議選はその前哨戦になる。4月の衆参3選挙を落とした菅にとっては負けられない戦いだ。 自民党は昨年の都知事選に独自候補を立てず、知事の小池百合子と敵対しない戦術に転じた。さらに、17年都議選で都民ファーストの会と組んだ公明党が今回は自民党と選挙協力する。議席回復に向け、二階を中心に着々と手は打ってきた。 それでも主役はやはり小池だ。なかなか都議選への態度を表明しない小池を巡って、永田町では「東京五輪中止を宣言して世論を味方につけるのでは?」「自民党から国政復帰するつもりだ」などと臆測が飛び交い、二階は「(都知事選を)1人で戦って勝利を収めたことを大いに評価したい」と小池とのパイプを誇示する。 菅は党内実力者の政治的駆け引きを横目でにらみつつ、高齢者へのワクチン接種を早急に完遂させるという二正面作戦を強いられている。首相再選へのハードルはなお高いと言わざるを得ない。 (敬称略)【政界レポート】菅の政権運営を左右する6月 全てはワクチン次第か……
バッハ会長の広島訪問「被爆地の政治利用」 地元市民団体が「訪問中止」を申し入れ:東京新聞 TOKYO Web
バッハ会長
来日中の国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が調整している広島市訪問は、被爆地を政治利用し被爆者を冒瀆(ぼうとく)するものだとして、地元市民団体が12日、バッハ氏の訪問中止を求めて広島県と市に申し入れた。
市民団体「東京五輪の中止を求める広島連絡会」のメンバーが県庁で担当者と面会。代表の足立修一弁護士は「新型コロナウイルス下での五輪開催強行を正当化するためにバッハ会長が『核のない平和な世界』のイメージを利用することは、被爆者に対する冒瀆」などとする申し入れ書を手渡した。
メンバーからは、東京都に新型コロナの緊急事態宣言が発令されている中での広島訪問を疑問視する声も上がった。県の担当者は「広島で感じたことを世界に発信していただくことには意義がある。防疫体制が取られているか、確認する」と応じた。
IOCのバッハ会長の広島市訪問中止を県の担当者に申し入れる足立修一弁護士(右)=12日午後、広島県庁
訪問は16日の予定で、同日にIOCのコーツ調整委員長の長崎市訪問も検討されている。
インターネットの署名専用サイトでは別団体がバッハ氏訪問中止を求める署名を呼び掛けており、1週間で8千人以上が賛同している。(共同)
逮捕者まで出て「カオスだった」 大学生が追いかけた衆院東京15区補選 いまの政治に希望は見えたのか:東京新聞 TOKYO Web
他陣営が演説中、電話ボックスに上り大音量で演説する「つばさの党」代表の黒川敦彦容疑者=4月16日、東京都江東区で
政治団体「つばさの党」による他陣営への演説妨害行為が、事件に発展した4月の衆院東京15区補欠選挙。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件への怒りなどを背景に、与党候補が不在となり、投票率は過去最低を更新。国民の間に広がる「政治不信」を、象徴する選挙ともなった。与党の責任は大きいが、野党も批判の受け皿になりきれていない。同補選で、各候補の演説を聴いて回った大学生たちに、いまの政治はどう見えるか。(山田雄之、森本智之)
◆野党の見本市のような選挙
2019年以降、汚職事件や公職選挙法違反事件で、衆院議員や区長(いずれも辞職)が相次いで立件された江東区。加えて派閥の裏金事件による逆風のなかで、自民党は独自の候補を擁立できず、衆院東京15区補選は、野党や無所属など過去最多の9人が立つ混戦となった。
つばさの党の候補者らが他陣営を追いかけ、拡声器などを使って演説を聞き取れないようにするなどの行為も問題化。他陣営は演説を中止したり、日程の公表を控えたりするなどの対応を余儀なくされた。
他陣営の演説中に公衆電話ボックスの上から声を上げる根本良輔容疑者=4月16日、東京都江東区で
不祥事に起因する江東区内の選挙が相次いでいる。「政治に期待しても、何も変わらないと思っているかもしれない」。投開票前日の4月27日夜、女性候補の1人は街頭で政治不信に触れて「政治をあきらめないで」と有権者に訴えかけた。しかし、補選の投票率は、過去最低だった17年をさらに14.89ポイントも下回る40.70%にとどまった。
異例ずくめの補選を「野党の見本市のような選挙。学生が多くの候補者の話を聴ける機会になれば」と位置づけて、フィールド調査をしたのが、法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)のゼミだ。大学2年から院生まで十数人が参加し、告示日や選挙サンデー、最終日の演説を聴き、外交や憲法、消費税など各候補が重視する問題を演説時間から分析した。
◆陣営同士が争い、警察が介入「演説を聴きに来た有権者もいたのに…」
各候補の訴えや選挙は、学生たちにどのように映っただろうか。
3年白井大也さん(20)=横浜市=は選挙サンデーの4月21日、つばさの党の妨害の影響で、女性候補の事務所に演説場所を教えてもらえず困ったという。ようやく目当ての候補の選挙カーを見つけたと思ったら、つばさの党の関係者が大音量の罵声をスピーカーで流し始め、その場の演説も中止となった。
街頭演説会場を警備する多数の警察官=4月21日、東京都江東区で
「陣営や支援者同士で争いになり、警察も来てカオスだった。仕事がない日曜日だから、と演説を聴きに来た有権者もいたと思う。聴かせてあげたかった」と残念がる。選挙運動の最終日、有権者の声援を受けた男性候補が涙の演説を行い、「人柄と熱意に心打たれた場面もあった」という。
気になったのは、やはり自民の裏金問題だ。「税金の使われ方が分からないのは不満だし、クリーンな政治をやってもらいたい。でもどの野党に入れたとしても過半数は取れない。政治が変わらないなら投票行かなくていいや、と若者は思っちゃうんじゃないか」
衆院東京15区の補欠選挙が告示され、街頭演説に集まった人たち=4月16日、東京都江東区で
「もう少し具体的な政策を聴きたかった」と振り返るのは、3年佐川太郎さん(20)=八王子市。告示日と最終日に演説を聴いた女性候補は、政党の理念を説明する場面が多く目立ったという。「どのように政党の理念を実現するのか、候補者が考える方法が知りたかった」と話す。
政権交代を望む声が上がっていることには、少し懐疑的だ。「自民党が長年にわたり政権運営してきた。批判に慣れている野党がいきなり交代して、与党として新たな政策を考えていけるのか、不安はあります」
◆真剣に演説を聴いたら「好感を持てた候補も」
候補者4人の演説を聴いたという3年加藤巧真さん(21)=同=は「今回ほど真剣に、各候補の演説を聴いたことはなかった。好感が持てた人もいた」と明かし、ある男性候補を「自分が実現したい社会を、分かりやすい言葉で説明していた」と評価した。
補選の投票率は過去最低を更新したが、「国民の政治への関心が低い、とは言い切れないと思う。信頼できる候補を見つけられなかった有権者の中には、白票を投じるのではなく、選挙に行かないことで意思を示す人もいるはず」と話す。
指導した白鳥教授は「政治の閉塞(へいそく)感を表す選挙だった。ただ、政治家の演説をじかに聴くのは貴重な機会。民主主義の実践の現場を学ぶことができ、訴えを分析することで、冷静に候補の主張を受け止める目を養えたのでは」と述べた。
◆「全敗」でも政治不信に向き合わない自民
東京15区と同日行われた島根1区、長崎3区と合わせ衆院3補選は不戦敗を含め、自民の全敗となった。それにもかかわらず、自民の政治不信に向き合う姿勢は、疑問符が付く状況が選挙後も続いている。
「再発防止の話と、自民党の力をそぎたいという政局的な話がごっちゃになっている」。派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正を巡り、党政治刷新本部座長の鈴木馨祐衆院議員は12日のNHKの討論番組で、野党側の出席者をこう批判した。
記者団の取材に応じる岸田首相=17日、首相官邸で
企業・団体献金の廃止など、自民党に抜本的な改正案を求める野党への反論だが、裏金事件の真相究明や改革は重要課題だ。自民の責任者でありながら、野党による「政局」であると、問題をすり替えるような意見には、交流サイト(SNS)でも批判が相次いだ。
環境相との懇談で水俣病の被害者らが発言中にマイク音を切られた問題を巡っても、環境省は大臣の謝罪や、対応力を高めるタスクフォースの新設を余儀なくされた。岸田政権の看板の「聞く力」も問われている。
◆「政権を担えるのか」国民の支持取り込めぬ野党
時事通信の世論調査によると、自民党派閥の裏金が発覚した昨年12月の調査で、岸田政権の支持率は17.1%となり、2009年9月以来2割を下回った。その後も低迷し直近の5月は18.7%だった。
衆院本会議=4月25日
ただ、野党の支持率も低い水準にとどまっている。5月の調査で立憲民主が5.1%、日本維新の会が2.1%。その一方で「支持政党無し」は66.9%に達し、12年に自民党が政権復帰して以降、最も高くなった。政権与党から離れた国民の支持を、野党も取り込めていないのが現状だ。
明治大の井田正道教授(政治行動論)は「金権政治に対する不信があって与党は支持したくないが、野党は分散していて、自民の代わりに政権を担えるのか、その能力にも不信がある。その結果、増えているのが無党派層だ」とみる。今回の補選でも「自民党は嫌だ。でも野党にも入れる気にならない」という人が棄権に回り、低投票率になったと分析する。
◆与野党が競い合わなければ政治は良くならない
与党にも野党にも満足できず、政治から国民の関心が遠のいている。
中央大の山崎望教授(政治理論)は「政権はレームダック(死に体)で、本来は野党にとってはチャンスのはず」と指摘した上で、「最大野党の立民にしても、今の与党に代わる政権構想を打ち出せていない。自民に政治改革が期待できない以上、野党には、国民の不信不満をまとめあげて、対立軸を示してほしい」と注文する。
前述の白鳥教授も「いまの政治不信は与党の責任が大きい」とした上で「自民の1強多弱が問題の根源にある。国会に緊張感がないから、自民は政治と金の問題でも、抜本的な改革案を示さなくて済んでしまう。与野党が伯仲しなければ、政治は良くならない」と野党に奮起を促した。
◆デスクメモ
15区補選を追った大学生の中には、候補の事務所付近に張り込んで、演説を待ち続けた人もいるという。「大人として恥ずかしくないのかよ!」と、つばさの党の関係者が子どもに突っ込まれているニュース映像も見た。若い世代を落胆させるような選挙戦は、これっきりにしたい。(恭)
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原発新増設は「火事場泥棒的な転換」 原自連が政府へ提言 「全力あげ再エネ100%を」:東京新聞 TOKYO Web
小泉純一郎元首相
小泉純一郎元首相が顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)は30日、政府にエネルギー政策の見直しを求める提言を発表した。原発再稼働の推進や新増設検討の方針撤回、再生可能エネルギーへの全面的な転換を訴えている。
提言では、岸田文雄首相が電力需給の逼迫(ひっぱく)を受け、原発の運転期間の延長や次世代革新炉の開発・建設を検討すると表明したことについて「火事場泥棒的な政策転換だ」と批判。ロシアが侵攻するウクライナで原発への砲撃が相次いでいることに関し、2011年の東京電力福島第一原発事故と同様の被害が懸念されると指摘した上で「(事故の)当事者の日本が再稼働や新増設に前のめりになる姿勢は『原発カルト』というほかない」と、速やかな原発の廃止を求めた。
電力不足や気候変動への対策としては、節電の促進や蓄電池の活用を挙げ、「国は、全力をあげて再生可能エネルギー100%を目指すべきだ」と主張した。(大野暢子)
自民党がフリーなカネ「政策活動費」温存に一生懸命 独自の政治資金規正法改正案を提出 しっかり穴だらけ:東京新聞 TOKYO Web
自民党は17日、派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた政治資金規正法改正案を衆院に単独で提出した。焦点の一つである政策活動費の使途公開は項目単位にとどまるなど、支出の実態が見えない「ブラックボックス」は相変わらず。連立与党の公明党ですら共同提出を拒む異例の状況で、野党は「検討対象にも値しない」と一斉に批判。衆院の政治改革特別委員会で22日に審議入りするが、自民と他党の隔たりは大きく、協議の難航は避けられそうにない。(井上峻輔)
◆首相「実効性ある」 しかし自民党内にも疑問の声が
17日午後6時過ぎ、記者団の取材に応じる岸田文雄首相=首相官邸で、千葉一成撮影
岸田文雄首相は17日夕、官邸で記者団に「実効性のある再発防止策になった。政治改革特別委の議論に真摯(しんし)に対応し、政治の信頼回復につなげていきたい」と強調。自民の森山裕総務会長は「自民党が変わったと感じていただけるのではないか」と自画自賛した。
首相らは自民案に「実効性がある」と繰り返すが、実際には与党内にもそんな受け止めはほとんどない。象徴的なのが党から議員個人に支出される政策活動費の使途公開だ。
自民案では政党から50万円以上の支出を受けた議員は使途を政党に報告し、党の収支報告書に記載する。その内容は「組織活動費」「選挙関係費」など大まかな項目だけ。個別の日時や支出先は明らかにされず、領収書の添付も不要だ。
自民の二階俊博元幹事長は5年余りの幹事長在任中に約47億8000万円を受領していたが、使い道がはっきりせず、政治不信を招いた。自民案では、二階氏の時のようなチェックが及ばない資金が残ることになる。
首相は国会審議で詳細な使途の公開に慎重姿勢を示してきた。法案作成を担った鈴木馨祐衆院議員は台湾との議員外交まで持ち出して「果たしてそういったものを全てオープンにするべきなのか」と強弁する。
◆自民幹部「国民の理解をいただけるのでは」と期待
そんな対応に自民内からも「項目だけの公開では国民の理解が得られない」(閣僚経験者)と懸念の声が上がり、16日の党会合では政策活動費そのものの廃止を求める意見も浮上。中堅議員は「幹部は自由に使える金を手放したくないのだろう」と冷ややかだ。
自民党本部
共産党の小池晃書記局長は「大きなブラックボックスを小さなブラックボックスにするだけ」と批判。立憲民主党の泉健太代表は「これで透明性が高まったというのは大間違い」と突き放す。
パーティー券購入者名の公開基準では、公明や野党各党は現行の「20万円超」から通常の寄付と同等の「5万円超」への引き下げや、パーティーの廃止を主張するが、自民案は「10万円超」で透明性の確保で劣る。野党各党が求める企業・団体献金の廃止も盛り込まれなかった。
自民は他党より企業・団体献金への依存度が高く、その資金源を温存したいのが本音。森山氏は「10万円超に引き下げたのはかなりの決断だった。政治活動にはコストがかかるというのは国民の理解をいただけるのではないか」と述べた。
◇ ◇
◆落選した自民陣営が対立候補への寄付者に押しかけて…
自民党が単独で衆院に提出した政治資金規正法改正案は、政治資金パーティー券の購入者の公開基準については現行の「20万円超」から「10万円超」への引き下げにとどまる。自民は与党協議で「5万円超」からの公開を求めた公明党との合意を見送り、引き下げに強く抵抗する裏にはどんな事情があるのか。
ある若手議員は、自民が「10万円」のラインにかたくなにこだわった背景について「現行の20万から下げすぎることが問題。10万円くらい買う人は結構多い」と解説する。氏名や住所が公開される基準が10万円以下に広がれば、パーティー券の売り上げ減になるかもしれないという理屈だ。
また、議員によると、前回の2021年衆院選では九州地方のある選挙区で、落選した自民候補の陣営が当選した対立候補に寄付した人を割り出し、自宅や会社の事務所に押しかけて詰め寄る事態も起きたという。「立場上の制約はあるがこの人は応援したいという気持ちを否定することにもなりかねない」と寄付者が公開されることになる基準の引き下げに懸念を示す。
「そういう『寄付者つぶし』みたいなことがあると、政界を志そうという若い政治家が出にくくなる。多選の人が有利になって政治の新陳代謝が起きず、おごりや緩みのある政治になってしまう」と指摘する。(佐藤裕介)
政治資金規正法 1948年施行。民主政治の発達を目的に、政治家や政党の政治資金の収支公開や寄付などについて定める。収支報告書は政党や政党支部、政治家の資金管理団体、派閥や後援会などの政治団体が作成し、毎年公表する。リクルート事件(1988年発覚)を受けた1994年の改正で、政治家個人に対する企業・団体献金は禁じられたが、政党や、政治家が代表を務める支部は対象外とされ、抜け穴として残った。パーティー券の購入は寄付には当たらず、1回150万円まで可能。20万円を超える購入者の名前は公表される。
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チュニジア議会選、暫定投票率8.8%は革命以来最低 「アラブの春」唯一の成功例だったが…サイード大統領の求心力低下:東京新聞 TOKYO Web
チュニスで17日、議会選の投票をするサイード大統領=AP
【カイロ=蜘手美鶴】チュニジアで17日に議会選(定数161)が実施され、選挙管理委員会は同日夜、暫定投票率が8.8%だったと発表した。独裁政権が倒れた2011年の「ジャスミン革命」以来最低で、サイード大統領に反発する主要政党が選挙をボイコットしたことなどが大きく影響したとみられる。
今選挙では比例代表制から候補者個人を選ぶ直接選挙制に変わり、選管によると約80万3000人が投票した。暫定の選挙結果は20日以降に発表される見込み。選管のボウアスカー委員長は「投票率は控えめだったが、過去の選挙と違い、金で票が買われなかった証拠。最もクリーンな選挙だ」と成果を強調した。
サイード氏は昨年7月以降、首相解任や議会解散などを進め、8月には大統領権限を大幅に強化する新憲法が発効。選挙法を改正し、24年予定の議会選も前倒した。低投票率を受けて主要政党は一斉にサイード氏を批判し、自由憲法党のムーシ党首は「国民の9割以上がサイード氏の計画を拒否した。早期の大統領選を呼びかける」として辞任を求めた。
ジャスミン革命以降、「アラブの春」の唯一の成功例とされたチュニジアだが、複数政党による新たな政治が始まると、イスラム政党「アンナハダ」が権力を独占し、政党間の権力争いが激化。経済回復は実現せず、既存政党へ失望が漂う中、当初は議会の権限縮小を図るサイード氏の改革を歓迎する声が強かった。
しかし、8月の憲法改正以降風向きが変わり始め、首都チュニスの弁護士マルワン・メネイスリーさんは電話取材に「サイード氏は明らかに独裁色を強めている。新たな独裁者の誕生には協力できない」と選挙をボイコットした。
主要政党の選挙ボイコットに加え、サイード氏の支持者離れも低投票率につながったとみられ、アラブ政治に詳しいエジプト人評論家バハエッディーン・アイヤード氏は取材に「低投票率を理由に、新議会は常に正当性を問われることになる。議会解散を求めるデモが起きる可能性もある」と懸念を示した。
東京都知事選挙、主要候補の公約比較 = 候補者たちは何を訴えている? | The HEADLINE
この記事のまとめ
💡 東京都知事選挙、主要候補の公約比較⏩ 過去最多56名が立候補⏩ 経済・雇用、少子化・子育て・教育、行財政改革・DX、インフラ・防災など8項目で比較⏩ 現職の小池百合子に蓮舫、石丸伸二、田母神俊雄などが挑む構図、投開票は7月7日
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「ナンシーはどこだ」米下院議長の自宅を男が襲撃、夫重傷 ペロシ議長が標的の犯行か:東京新聞 TOKYO Web
米民主党のペロシ下院議長(左)と夫のポール・ペロシ氏=2019年12月、ワシントン(AP)
【ワシントン=浅井俊典】米西部サンフランシスコにあるナンシー・ペロシ下院議長(82)の自宅に28日未明、男が押し入り、ペロシ氏の夫(82)が重傷を負った。逮捕された男はペロシ氏を襲撃する狙いだったとみられる。中間選挙が来月8日に迫る中、米国内では繰り返される政治的暴力への懸念が高まっている。
男はデービッド・デパピ容疑者(42)。28日午前2時半ごろ、ペロシ氏の夫で実業家のポール氏から緊急通報を受けた警察官が駆けつけたところ、容疑者がポール氏をハンマーで殴打したとされる。ポール氏は頭蓋骨骨折などで重傷を負い、病院に搬送された。手術を受け、回復が見込まれるという。
28日、米サンフランシスコにあるナンシー・ペロシ下院議長の自宅付近で捜査する連邦捜査局(FBI)職員ら=AP
ペロシ氏は事件当時、首都ワシントンに滞在中だった。容疑者は「ナンシーはどこだ」と叫び、ペロシ氏が帰宅するまでポール氏を縛って拘束しようとしていたという。
米CNNテレビは、容疑者がフェイスブックで2020年大統領選は大規模な不正によって「盗まれた」と根拠のない主張をしたり、新型コロナウイルスに関連した陰謀論を投稿したりしていたと報じた。
米メディアによると、昨年1月のトランプ前大統領支持者らによる議会襲撃事件以降、議員への脅迫が急増している。トランプ氏と激しく対立し、議会襲撃で暴徒から標的の1人とされたペロシ氏も、襲撃事件後に自宅に落書きされ、豚の頭部を歩道に置かれるなどの嫌がらせを受けていた。
バイデン大統領は28日、東部ペンシルベニア州で開かれた集会で「米国には政治的暴力や憎しみが多過ぎる。こうした暴力に対して明確に立ち向かう必要がある」と述べた。野党共和党上院トップのマコネル院内総務もツイッターで「ペロシ氏宅が襲撃されたとの報道にぞっとし、嫌気がさしている」とつづった。
ペロシ氏は民主党リベラル派の重鎮で、8月に台湾を訪問するなど対中強硬派としても知られる。下院議長は正副大統領に次ぐ米国ナンバー3の高位で警護がつくが、家族は保護対象になっていないという。
「石丸フィーバー」なぜ起きた? 「政治が面白い」「人柄を信じられる」と無党派層に言わせた独自の戦略:東京新聞 TOKYO Web
7日に投開票された東京都知事選で、東京では全く新顔の前広島県安芸高田市長、石丸伸二氏(41)が、立憲民主党や共産党などが支援する前参院議員の蓮舫氏(56)を押さえて2位となる見通しだ。主要政党や組織の支援を受けない石丸氏の選挙戦で実動部隊を担い、「石丸フィーバー」(選対幹部)を演出したのは、どんな人たちだったのか。(佐藤裕介)
聴衆とタッチを交わす石丸伸二氏=6月26日
◆「支持政党なし」の投票先、最多は石丸氏
石丸氏は7日、「これまで選挙に縁がなかった方が今回投票に行かれたという動きはあったと思う。政治というのは、あくまで住民の意識でしかないので、その意識が少しでも変わってきたのなら、自分にとってはものすごく大きな成果だ」と選挙戦を振り返った。
そうした動きが出た要因については、「面白そうだ(と有権者が感じた)からじゃないか。本人が楽しそうに選挙に向き合ってる」と話した。
東京新聞などが実施した投開票日当日の出口調査では、「支持政党なし」層の投票先で最も多かったのは石丸氏の37.99%で、小池氏の30.56%や蓮舫氏の16.60%を上回った。
◆ネット駆使して「実質ゼロ円都知事」構想
「スマホのラインの友達に(自身の)写真や動画を撮って、迷わず送って」
石丸氏は選挙戦終盤の7月3日、JR日暮里駅(荒川区)前での街宣で集まった聴衆にそう呼びかけた。
市長を務めた安芸高田市のYouTube公式チャンネルの登録者数(26万人超)が、自治体として日本一だったと強調。自らが知事になれば都の公式チャンネルの登録者数が増え、広告収入の増額分で「都知事の年収分くらい稼げるんじゃないか」とし、自身が当選すれば「実質ゼロ円都知事」が誕生するとPRした。各地の街宣でも同様の呼びかけを続けた。
石丸氏の選挙カーに貼られた「撮影・拡散OK」のチラシ
街宣車には「SNS投稿OK」「撮影・拡散OK」のステッカーを貼るなどの工夫も凝らし、政策の内容以上にネットを通じた名前の浸透に軸足を置いた。
◆小池氏や蓮舫氏の主張は「あまり知らない」
石丸氏の陣営によると、選挙運動を手伝うボランティアの数は、5月下旬から6月末までの短期間で5000人を超えた。街頭演説の現場を取材すると、選挙戦を支えた支援者や聴衆には「初めて政治に関心をもった」と話す人が目立った。
3日にJR日暮里駅前で街宣を聞いていた江東区の男性会社員(28)は1年ほど前にYouTubeで市長時代の石丸氏を知り「こんなにはっきり物事を言う政治家がいるんだ」とひかれた。
石丸伸二氏の街宣に集まった聴衆=6月26日、東京都世田谷区
これまでは現職の小池氏や既存政党の動向に「全く関心はなかった」が、石丸氏の出馬を知り「今回は東京を良くするために絶対に投票しないといけない」と感じた。小池氏や蓮舫氏の主張については「あまり知らない」といい、石丸氏に実現してほしい政策は「特にはない」ものの、「石丸さんは人柄を信用できる」と期待していた。
近くにいた世田谷区の女子大学生(22)も無党派層を自認。やはりYouTubeで石丸氏を知り、「政治が面白いものだということが分かり、彼のファンになった」という。
同じ場所で聴衆の交通整理に当たっていた小平市の女性(61)も、石丸氏を知ったのはYouTube。「言っていることが分かりやすくて、政治が一気に身近に感じた」。
聴衆を前に支持を呼び掛ける石丸伸二氏
これまでの都政に大きな不満を持っていたわけではないが、強い閉塞(へいそく)感は感じていたという。「将来世代のために未来の東京に向けた道筋をつけないといけない」と感じ、未経験だった選挙ボランティアへの登録を決めた。
◆「一種の地殻変動が起きた」
石丸選対の事務局長を務めた藤川晋之助氏は、石丸氏の発信力を「稀有(けう)な才能」と高く評価する。
自民党田中派の議員秘書などを務め、民主党時代の小沢一郎氏らの選挙も手伝った藤川氏は、150回余りの選挙戦に参謀役として携わって140回以上の勝利を重ね、永田町界隈(かいわい)では「選挙の神様」の異名もとる人物だ。
7日夜、都知事選の落選が決まり、記者の質問に答える石丸伸二氏(木戸佑撮影)
そんな藤川氏は、石丸氏の選挙戦について「当初からSNSに接する機会の多い若い層の支持は非常に強いものがあった」と分析。選挙戦ではネットに加え、街宣を通じて高齢者を含む幅広い世代に支持を訴える戦略をとったという。
石丸氏は、6月29日には18カ所で街頭に立った。平日も30分単位で精力的に街宣し、都内各地で支持を呼びかけた。
藤川氏は「何の動員もせず、各地の街宣に1000人を上回る聴衆が詰めかけた。普通の政治家にこんなことはできない」とした上で、「これまで政治や選挙に関心のなかった無党派層が石丸氏をきっかけに政治に関心を持つようになったのではないか」と指摘。「政党から何の推薦も支援も受けない候補がここまで善戦するのは、一種の地殻変動だ」と語った。
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なぜ記者会見で「人数制限」? 政府や自治体、コロナとの共存に踏み出したのに…<民主主義のあした>:東京新聞 TOKYO Web
日本社会は新型コロナウイルスとの共存に踏み出しているにもかかわらず、国や自治体などの多くの記者会見で、コロナ感染防止対策を理由に、出席人数などの制限が続いている。会見は国民の「知る権利」に応えるため、為政者らが民意に沿って施策を進めているかどうかを報道機関が監視する場でもある。現状を点検し、「ウィズコロナ」での会見のあり方を考えた。
◆官邸会見室 130席→29席 官房長官「危機管理、極めて重要」
コロナ対策で参加人数の制限が続く会場で記者会見する岸田首相=7月14日、首相官邸で
コロナ禍以降、安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の各首相は、政府の対策などを説明するため計40回以上、首相官邸で記者会見を開いてきた。しかし、コロナ対策と称して会見への参加人数を絞っている。
従来は会見室に約130席あったが、2020年4月以降、29席に減らされた。官邸に常駐する19社は、会見に出席できる記者を1社1人に制限。地方紙や外国プレス、フリーランスなど「一定の要件を満たした記者」(官邸報道室)への割り当ては10席だけで、希望者多数の場合は官邸側が抽選で選んでいる。
会見時間は長い場合で1時間ほど。「限られた時間内に多くの記者に質問してもらうため」(同)として、首相が質問にきちんと答えていなくても再質問は認められない。
平日に原則2回行われる官房長官会見も、コロナ禍で1社1人の人数制限を導入、フリーランスらの参加は金曜日の1回のみ。こうした対応は、感染状況が下火になっている時期も変わらなかった。記者側は感染状況を見ながら、会見の制限撤回を申し入れてきたが、官邸側は「危機管理の観点から極めて重要」(松野博一官房長官)として、撤回には応じていない。
首相と報道機関とのやりとりは、官邸のエントランスや出先で首相が足を止め、記者の質問に数問応じる「ぶら下がり」と呼ばれる形式もある。北朝鮮のミサイル発射など突発事案の発生時に開かれることが多い。コロナ禍以降、これも感染防止対策として首相と記者団は数メートルの距離を取るようになった。
岸田首相が8月、コロナに感染した際は、首相が公邸から専用の会議システムを使って質問に答える「ぶら下がり」が実施された。官邸の一室に集められた記者が首相の映るモニター付近に集まり「密」になる様子は、「群衆が街頭テレビを見る昭和の図に似ている」ともやゆされた。
◆都の「ハイブリッド」形式 対面はクラブ加盟社に限定
東京都の小池百合子知事の定例会見は、コロナ禍でも対面形式で続けてきた。だが、今年1月、オミクロン株による感染拡大と、庁舎の改修工事で会見室が手狭となったことを理由に、オンラインに切り替えた。
感染がいったん収束した6月、都と記者クラブの協議で、対面とオンライン併用の「ハイブリッド」形式に移行。クラブ加盟20社は1社1人のみ会見室に入り、他の記者はオンラインで参加している。
オンライン参加の記者は、知事が机上のモニターで挙手ボタンに気付けば、指名を受け質問できる。フリーランスの記者から対面参加を望む声があるが、感染の再拡大が繰り返される中、実現していない。
新型コロナの感染状況を助言する厚生労働省の専門家組織は昨年夏ごろから、感染予防のため、省内の会議室に専門家が来なくなった。議論の中身は会合終了後、脇田隆字座長が説明している。ただ、省内で専門家への個別取材ができなくなったことで、少数意見や検討中の議題などの情報が得づらくなった。複層的、多面的な報道を行う上ではマイナス要因だ。
財界では、日本経済団体連合会(経団連)会長の定例会見が毎月2回開かれているが、コロナによる緊急事態宣言下のみ、出席者は1社1人に制限し、カメラは代表撮影としている。
通常は、マスク着用や記者間や会長との距離を一定程度離すなどの対応を取っている。会見時間は従来通り30分で、質問の制限はしていない。(山口哲人、沢田千秋、並木智子)
◆あしき会見広めた首相官邸 民主主義社会の危機 山田健太教授に聞く
首相記者会見について話す専修大の山田健太教授=東京都千代田区で
首相や官房長官の会見は単なる情報提供サービスではなく、政府の説明責任を果たす象徴的な場だ。会見での対応を誤り、短命に終わったのが菅政権だ。
菅義偉前首相は官房長官時代、ぶっきらぼうな物言いで政権の防波堤役を務めた。その成功体験から、首相になっても同じスタイルを続け、国民の怒りを買った。最後は党内の力学で退陣に追い込まれたが、会見での不人気がそれを後押ししたのは間違いない。
岸田文雄首相になって、会見やぶら下がり取材に応じる数は増えたが、一方的な発信や情報の出し渋りが目立つ。安倍晋三元首相の国葬に関しても、岸田氏は「丁寧に説明する」と言って何度か会見を開いた割には、同じ説明しかせず、国会答弁も同じだった。
政府は集会の人数制限をなくすなど、新型コロナウイルス感染拡大の第1波当時と比べ、対策を緩和している。一方で、緊急事態宣言が初めて出された時と同じように、首相官邸での会見は1社1人しか出席を認めておらず、首相の会見では同じ記者の再質問を禁じている。再質問の制限は以前からあったが、コロナ対策名目で人数制限を加えた。記者の追及をかわすための、コロナの悪用だ。
質問者を決めるのも官邸側なので、時間切れを理由に、都合の悪い質問をする記者らを指名しないことも容易だし、質問に正面から答えず逃げ切ることも可能だ。これはもはや、記者会見とは言えない。
現在、公的機関から芸能人まで、「1社1人1問」といった形式の会見が目立つ。この日本独特のあしき会見を広めたのは、首相官邸だ。このままでは、有事の際にも国民は知るべき情報を知ることができない。民主主義社会にとって危機的なことだ。
これに対抗するには、報道機関の連帯が必要だ。各社が協議し、公平な方法で質問する社を決め、官邸側に通告するのもひとつだ。
記者と首相の丁々発止がなく、重要な情報も出てこない会見に、市民が期待を抱くわけがない。政治への無関心にもつながる。低支持率の岸田政権がいまひとつ危機感に乏しいのはそのためだ。求められているのは記者会見の活性化だ。(聞き手・大野暢子)